ビームスは、医療法人社団天太会が運営する東京・虎ノ門のクリニック「チームメディカルクリニック」のリニューアルに際し、内外装と院内グッズをデザインした。「チームメディカルクリニック」は、“スマートクリニック”と呼ばれるIT技術を活用した新基準のクリニック。タブレット端末による問診システムやウェブ予約、“スマホ診察券”による自動受け付けなどを取り入れ、スピーディーでストレスのない受診を可能にする。
プロジェクトを担当したのは、ビームスの店舗デザインなどを数多く手掛けてきたビームス創造研究所の南雲浩二郎クリエイティブ・ディレクターだ。「通常のクリニックだと、医療機関から届くポスターなどの紙物が壁に貼られていたりして雑然としているので、その部分を減らしたいというリクエストがあった。そこから“ノイズを徹底的に減らす”ということをテーマに掲げた」と説明する。病院に求めるイメージをデザインチームで挙げたところ「聖地、安全、安心感、清潔感」など、全員がほぼ同じようなワードを挙げたという。「とても統一感がある言葉で、物販と違ってみんなが求めていることが同じだということが分かった。答えがハッキリしている分、ビームスのようなセレクトショップをつくるよりも意外と簡単だった」。
まず、色調を白とネイビーにまとめ、誰から見ても清潔感のある空間を目指した。壁には、テーブルトップとして使われるような素材のポリ板を採用。装飾の代わりにグラフィックで数字、英表記、日本語表記を文字の大小と色の組み合わせで表現した。診療室を仕切るカーテンも裾をあえて短くすることで、閉塞感をなくした。建物の構造は以前のままだが、歩道から見えないように壁を新設して配慮したり、自然光を多く取り入れられるように壁の天井付近を窓にしたりして、開放感も意識した。
「2001年宇宙の旅」や「スター・トレック」といったSF映画もアイデアソースだ。「(健康診断の際などに着用する)検診着はサイズ感と丈、空間に合うことを前提に、どこかにその雰囲気が漂うように意識した」と南雲ディレクター。男性用はリブ付きのジャケット、女性用はライダースジャケット風にして着丈を少し長めのヒップが隠れる長さにした。身長の違いでパンツ丈の長さが変わってしまうことを考慮し、裾には緩めのリブを施した。スリッパはバブーシュ型にして内側をメッシュにしたことで裸足でも履ける。
ビームスの設楽洋社長は、「最終的には健康や美容の分野が重要になってくるだろう。病気だけじゃなく、エイジングケアや体をキープするための何か――。そういうことに関心の高い人が、ファッションに興味を持っている人の中には非常に多い。ビームスは“ハッピーライフ ソリューション カンパニー”を掲げているが、最後は健康で長生きできることが一番ハッピーにつながる。そういったジャンルにビームスが関与することが重要だ。将来、メスを入れないエイジングケアのようなことを”ビームスクリニック(仮)“でやっていく可能性もある。その時に向けて、まずこれを雛型にいろいろと実験をしていきたい。今回、検診着をデザインしたことで新たなモノ作りを経験できた。先日の宇宙服のデザイン(※野口聡一宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに長期滞在する時に着用するアイテムを製作したことを10月1日に発表)もそうだが、素材感や機能性など、ファッション的なデザイン以上に踏み込んだデザインが近未来の洋服をやっていく上で必ず役立つ。それが次の時代のハッピーにつながるだろう」と話した。